【雇用保険 教育訓練休暇給付金】(2025.9.2)
<<制度の目的・背景>>
教育訓練休暇給付金は、令和7年10月1日に施行される「雇用保険法等の一部を改正する法律」(改正法)により、雇用保険法第10条第5項に新たに創設される制度です。この給付金は、既存の教育訓練給付金の一類型として位置づけられます。本制度は、労働者が自らの職業能力向上を図るための教育訓練を受けやすくすることを支援し、キャリア形成を促進することを目的としています。
<<対象者等>>
この給付金は、一般被保険者が職業に関する教育訓練を受けるための休暇(教育訓練休暇)を取得した場合に支給されるものです。具体的には、教育訓練休暇の開始日(以下「休暇開始日」)から起算して1年間の期間内に取得した教育訓練休暇の日数について、給付が行われると定められています。受給資格については、いくつかの要件が規定されています。まず、給付の要件を判定するにあたり、休暇開始日の前日を受給資格に係る離職の日とみなすことが前提となります。その上で、休暇開始日前2年間における被保険者期間が通算して12箇月以上あることが必要です。
給付される額は、基本手当の日額に相当する額とされています。給付の上限は、特定受給資格者以外の受給資格者に対する所定給付日数分を限度としています。大きな制度概要は以下の通りになります。
【支給対象者】以下の①、②の両方の要件を満たすことが必要
① 休暇開始前2年間に12ヶ月以上の被保険者期間があること
② 休暇開始前に5年以上、雇用保険に加入していた期間があること
【給付日数】
① 5年以上10年未満 雇用保険加入・・・ 90日
② 10年以上20年未満 雇用保険加入・・・120日
③ 20年以上 雇用保険加入・・・150日
【給付額】
・ 給付日額は、原則休暇開始前6ヶ月の賃金日額に応じて算定
【教育訓練休暇給付金の支給対象となる休暇】
① 就業規則や労働協約等に規定された休暇制度に基づく休暇
② 労働者本人が教育訓練を受講するために自発的に取得することを希望し、事業主の
承認を得て取得する30日以上の無給の休暇
③ 学校教育法に基づく大学等が提供する教育訓練等
<<注意事項>>
① 業務命令で従業員に資格を取得させたい場合には、本制度が活用できない
② 解雇等を予定している労働者について虚偽の届出を行った場合、罰則の対象
③ 教育訓練休暇給付金を受給した場合は、被保険期間は原則 リセットされる
④ 就業規則要件が本制度に合致しているかは、休暇開始前に管轄職安で確認可
<<その他詳細>>
他の雇用保険の給付金との関係についても、詳細な規定が設けられています。まず、被保険者期間および算定基礎期間の計算に関する特例があります。 基本手当、教育訓練休暇給付金、または傷病手当の支給を受けたことがある場合、当該教育訓練休暇給付金の支給に係る休暇開始日前の被保険者であった期間は、その後の被保険者期間の計算には含まれないこととされます。同様に、当該教育訓練休暇給付金の支給に係る休暇開始日前の被保険者であった期間および当該教育訓練休暇給付金の支給に係る休職期間は、算定基礎期間にも含まれないことと規定されています。これは、これらの期間が将来の給付額や給付期間の計算に影響を与えないようにするための措置です。
一方で、介護休業給付金、育児休業給付金、または出生時育児休業給付金との関係については異なる扱いとなります。これらの給付金の支給にあたっては、教育訓練休暇給付金に係る休暇開始日前の被保険者であった期間および当該給付金支給に係る休職の期間は、みなし被保険者期間の計算から除外しないと規定されています。これは、基本手当等とは異なり、教育訓練休暇を取得した期間が、これらの休業給付の受給資格期間(みなし被保険者期間)として考慮される可能性があることを示唆しており、労働者の多様なキャリア状況に配慮したものです。さらに、特別なルールとして、教育訓練休暇給付金の支給を受けた者が、その休暇開始日から当該教育訓練休暇の終了後6箇月を経過する日までの間に、特定受給資格者となる離職理由により離職し、かつその者が特定受給資格者以外の受給資格者である場合、その後に支給される基本手当の所定給付日数は90日に設定されることになります。ただし、障害者等の就職困難者に該当する場合は150日となります。これは、教育訓練休暇給付金受給後の離職に対して、基本手当の所定給付日数を調整することで、制度の公平性を保ち、濫用を防ぐ目的があると推測されます。
このように、教育訓練休暇給付金は、労働者の自律的なキャリア形成と能力開発を後押しする重要な制度であり、他の雇用保険給付との複雑な関連性も考慮されています。
<<施行日>>
令和7年10月1日より施行
<投稿者: 社会保険労務士 大髙 秀樹 >